くりあげヘンサイ教

usagitokame

午後の仕事はほとんど手につかなかった。

カメオはミラー女史から受けたアドバイスをもとに、デスクに戻ると優遇制度と団信について、インターネットでさらなる情報収集に励んだ。

はたからは、熱心に仕事に励む模範的公務員に見えたに違いない。そろそろ終業の時刻にさしかかろうかという頃、カメオが新しいお茶を淹れに給湯室を目指して立ち上がると、遠くのほうからスピーカーのボリュームを最人限に上げたワンボックスカーが、説教風の宣伝を繰り返しながら役場のほうへ近づいてきた。

・信じる者は救われます
・早ければ早いほど利払いが減るのです
・支出の増える時期にヘンサイガクケイゲンガタにすれば天国が約束されます

「なんだ?あれ」カメオは隣で書類の整理をしていた後輩のツルタロウに訊いた。
「え?カメオさん知らないんですか?くりあげヘンサイ教ですよ」
「くりあげヘンサイ教?」
「ええ、最近、信者が急拡大しているという噂の教団です。なんでも〈住宅ローンの繰上返済をすると天国へ導かれる〉っていうのを教義にしているらしいですね」

繰上返済か・・・カメオはハッタン村で出会ったシャノアール夫人の顛末を思い出した。たしか夫人は、繰上返済に力を入れすぎたあまりローン破綻者になったのだった。

でもあの話、かなり特殊なケースだったよな。やり方次第では、繰上返済は住宅ローンのトータルコストを大幅に削減できる有効な手段になるはずだ。ボクもできることなら繰上返済したいな。

ふと我に返ると、ツルタロウがカメオの名を何度も呼んでいた。

「カメオさん、電話ですって」

えっ?

「だから、電話。ミラーと名乗る女性からお電話です」

カメオはツルタロウに軽く詫びを言うと、ドキドキしながら受話器を取った。

「お仕事中にごめんなさいね」

いえ、別にお仕事中じゃないので・・・心のなかのつぶやきが邪魔をして、カメオはごにょごにょと口ごもった。で、どうかされました?

「一つ言い忘れたことがあったの。くりあげヘンサイ教の話よ」

奇妙なシンクロニシティにカメオの心臓がドキリと高鳴った。

<続く>

This entry was posted in 未分類. Bookmark the permalink.

Comments are closed.