余剰資金の合格ライン

usagitokame

「では、もう一つの計測器を取り出そう」

シロフク先生に借りた金融電卓のおかげで、目星をつけていた住宅ローンの試算にすっかりハマってしまった二人は、その一言で我に返った。

「もう一つの計測器、それは〈毎月、自由に使えるお金〉じゃ」

ウサコはピンときた。自由に使えるお金って、クロ兄が教えてくれたローン選びの7ヵ条に入っていなかったっけ?

「これは家計のなかで毎月自由に使えるお金のことで、フリーキャッシュフローとも呼ばれる。こちらは住宅ローンの安全性を測る計測器となる。これをきちんと使いこなせれば、将来、住宅ローン破綻者になるおそれからは解放される」

先生は再び黒板の前に立ち、何やら四角い図形を書き始めた。

「こっちが収入」そう言いながら、左側の四角形に上から〈世帯主の収入〉〈配偶者の収入〉〈その他の収入〉と書き込んだ。

「こっちは支出」

同じように右側の四角形には〈生活費〉〈保険関係費〉〈住宅関係費〉〈教育費の積み立て〉と書き入れた。

すると最後に一つ、何も書かれていない四角形が残った。

先生はその四角形を指さした。

「この図は、ある時点の家計を、収入と支出の項目別に切り取った断面図のようなものじゃ。この何も書いていない四角形、これが家計の余剰資金、すなわち〈毎月、自由に使えるお金〉の欄となる。

この先ここにいくらの金額を入れられるかによって、おまえたちの運命も変わる。さっそくだが、現在二人の家計の余剰資金がどうなっているか、それぞれ書き込んでもらおう」

「わが家の余剰資金なんて見当もつかないわ」ウサコは即座に白旗を上げた。

「難しく考える必要はない。一昨年の年末と昨年の年末の預貯金残高を確認してみればよい。差し引きして、いくら預金が増えたか、あるいは減ったかを見る。その結果がそのまま余剰資金、すなわち〈毎月、自由に使えるお金〉となる。

ウサコは、この日も持参するように言われていた〈お守り〉の中から預金通帳一式を取り出し、一家の〈毎月、自由に使えるお金〉を計算した。

「一昨年は282万円、昨年は307万円だったから、プラス25万円ね。だいたい月に2万円の貯金ができていたことになるわ」

「そうか。では、きょうウサコが選んできた住宅ローンを実際に借りた場合、現在の〈毎月、自由に使えるお金〉と住宅ローン借入後の〈毎月、自由に使えるお金〉にどのような違いが出るか確認してみよう。これを見れば、その住宅ローンがウサコにとって本当によいローンか簡単に見分けがつく」

先生はウサコの〈毎月、自由に使えるお金〉のビフォーアフターを計算した。

「借人後の〈毎月、自由に使えるお金〉は月々約2万7000円だな」

「7000円も増えたわ!」

「喜ぶのはまだ早い。その金額の善し悪しは、〈毎月、自由に使えるお金〉が収入全体に占める割合を計算してみるまでは分からん。月々の自由に使えるお金を12倍して計算してみなさい」

ウサコはささっと慣れた手つきで電卓を弾いた。「収入の4・99%ね」

「カメオはどうじや?」

カメオの月々の自由に使えるお金は約3万円。年収に占める割合は6・56%と出た。

「よろしい」先生は満足そうにうなずいた。「ずばり言おう。〈毎月、自由に使えるお金〉が収入に占める割合は、最低でも5~10%必要になる。この割合が安定的に確保できなければ、その住宅ローンの計画は誤りと言ってよい」

「アタシ、5%以下だけど大丈夫かしら?」ウサコが心配になって訊ねた。

「うーん、是が非でも5%以上を死守できるように計画全体を見直さんとな。4・99%というウサコのいまの数字は、周りの条件を変えれば自動的に変わる。住宅ローンの借入金額を減らす、支出を削減する、将来を見据えて積極的にお金をふやす、どこかが変われば〈毎月、自由に使えるお金〉の数字もおのずと変わる。

すなわち、〈毎月、自由に使えるお金〉を一つの基準として全体を見ていくことで、住宅ローン全体を総合的に判断することが可能になるのじゃ」

「なるほど」カメオが膝を打った。

続けて先生は、〈毎月、自由に使えるお金〉の役割をさらに細かく説明してくれた。

「〈毎月、自由に使えるお金〉の基本的な役割は、住宅ローンの借入2年目以降に、資金計画の段階で想定していなかった支出の原資となることじゃ。たとえばクルマの車検代、冠婚葬祭費、将来への投資、生活の潤いのため、あるいは老後に備えた貯蓄など。

また、変動金利や固定期間の短いローンを選んだ場合、〈毎月、自由に使えるお金〉は金利上昇に対する備えという一面ももつ、とまあ難しそうに言ったが、要は(毎月、自由に便えるお金〉とは『生活を豊かにするためのおカネ』だと思ってもらえればよい」

<続く>

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